【アーサナの女王】サーランバ・サルヴァンガーサナ(肩立ちのポーズ)
プラティ・パクシャ・バーバナン
ネガティブな、思考が頭をよぎったら、それと反対のものを思うこと。
→否定的な思考に囚われていると、その考えを自分で制御することは余程の強さがないと難しい。一番簡単なのは、反対の事を思い浮かべること、それができなければ環境を変えること。
ヨガ スートラ 2章33節
逆転のポーズは、心臓より頭が下にきます。視点が変わることで自分の心の変化がより感じやすくなります。自分の心の癖にも目を向けやすい。(逆転=頭が反応しにくい)逆転ポーズは気分転換、思考をリフレッシュさせるときにとても良いポーズです。
ヨガの中でも逆転のポーズはたくさんあります。(逆転=頭が心臓よりも下にくる)ダウンドッグ、プラサリータ・パドッタナーサナ、ヘッドスタンドなどがあげられます。
なかでもサーランバ・サルヴァンガーサナ(ショルダースタンド)は「アーサナの母」「アーサナの女王」と呼ばれるほど大きな効果があるポーズと言われます。
心身の調和と安定を得ることができる肩立ちのポーズについて深掘りしていきます。
Contents
サーランバ・サルヴァンガーサナとは
サーランバ・サルワーンガアーサナは、Salamba「支えられて」Sarva「すべて」Anga「身体」の意味をもち、日本語で「支えのある肩立ちのポーズ」と訳されます。肩で身体全体を支える逆転のポーズです。名前の通りこのポーズは肩と二の腕が土台となり体重を支えます。英語でショルダースタンド(肩立ち)と言いますが、ネックスタンド(首立ち)ではない点に注意が必要です。
できるかぎり肩を上に引き上げて顎を胸に近づけるような意識でポーズをキープします。(ジャーランダラバンダ・ポジション)肩を引き上げることで体重が両肩と後頭部にかかるため首を守ることができます。
肩立ちのポーズにおいて身体を垂直に立てられるかどうかは、一人ひとりの骨格によるところが大きいです。(そのため必要に応じて肩の下にブランケットを入れて高さを出す必要があります)ヨガのゴールは皆(先生)と同じポーズの形をとることではありません。必ずしも垂直に身体を立てることをゴールにする必要はないのです。
自分自身の骨格・身体の特性を見極めて自分が心地よいと感じるポジションでキープしましょう。(腰を落として「くの字」に曲げることで首への負担を軽減する)
サーランバ・サルヴァンガーサナの目的
肩立ちのポーズには多くの解剖学的効果やメリットがありますが、ヨガの八支則におけるサーダナ(実践)においても二つの重要な役割を果たしています。
ショルダースタンドを単に一つのポーズの実践ととらえるのではなく、プラーナーヤーマ(呼吸法)におけるクンバカ(止息)の準備、そしてプラティヤハーラ(制感)の実践を通じて瞑想に至るためのプロセスとして捉えることが可能です。
- 【プラーナーヤーマの準備】クンバカ実践へ向けたジャーランダラバンダ(ポジション)の準備
- 【瞑想の準備】プラティヤハーラ(制感)としての実践
一つ目の目的としてプラーナーヤーマの準備があげられます。肩立ちのポジションが、内的クンバカ(吸気のあとの止息)の時に行われるジャーランダラ・バンダと呼ばれる喉ロックの形に似ていることから、プラーナーヤーマの実践の前に肩立ちポーズを練習することが推奨されています。(厳密には、肩立ちのポーズにおいてはジャーランダラ・バンダは行わず、そのポジションをとっているのみ)
二つ目の目的は瞑想の準備です。ヨガの八支則における5番目の実践であるプラティヤハーラ(制感)は感覚の制御を意味します。五感を外部の刺激から引き離してコントロールし、安定した精神状態を保つ状態を指します。
通常の直立姿勢では私たちの感覚は外側の世界に引き寄せらせれ、自分自身を外側の世界に投影し人生に起こることと自分自身を同一視してしまう傾向にあります。
感覚が外界世界に向いていると、私たちの心は暴れ馬のように自分から引き離されてしまいます。この感覚を自分の中に引き戻す最も直接的な方法は、逆転のポーズなのです。
肩立ちポーズのように体が長時間逆さまになることで、感覚を自分の内側に引き戻すことができるようになります。意識を内側に集中させていくプラティヤハーラの実践は瞑想の準備として非常に重要です。
肩立ちのポーズの効果
- 胃下垂などの、内臓の位置異常を改善、消化機能を高める
- 逆さまになることで、リンパと静脈の循環を向上(血流の改善)
- 集中力の向上
- 背骨を持ち上げて背筋を強化
首は非常に繊細で、あまり負荷をかけすぎると怪我をしてしまうリスクがあります。(首を痛めている方、怪我をしている方はいますか?)怪我をしないことが一番大切。正しい安全なやり方を覚えて実践しましょう。
禁忌
- 高血圧、緑内障、網膜剥離、首の怪我
- ストレートネックの人(ハラーサナなしで行う)
サーランバ・サルヴァンガーサナの実践
ポーズの実践に入る前に改めてこのポーズの土台がどこなのかを考えてみましょう。
肩立ちのポーズでは、両肩と後頭部の3点で体重を支えます。少しでも首への負担を軽減するため、できる限り肩・肩甲骨を上(耳の近く)に引き上げる意識で行います。
- あお向けになり両膝を立てます。手のひらは下向きお尻の横へ
- 両手で床を押しながらお尻を持ち上げ、両足を頭の向こう側の床につく(ハラーサナ・鋤のポーズ)
- 両出を組んで肩甲骨を中央に寄せる(つま先は床についたまま)
- 両手で背中を支えて(指先上向き)、片足づつ足をまっすぐ天井方向へ伸ばします。
3つのポイント
- 肩甲骨を中央に寄せること(お尻を軽くゆらすように)
- 肘を深くまげ、できるだけ低い位置で背中を支えると足が上がりやすく、体重を支えやすくなる
- 手の小指側を強くおすと上腕二頭筋が働き、しっかりと支えられるようになる
注)肩甲骨を中央に寄せる動きをする時に、肩を下に引き下げる必要があります。一瞬だけ頸椎への負担を感じることがありますが、ポーズを保持する時には肩を耳に近づけるよう意識しつづけます。
3つの軽減法バリエーション
肩立ちのポーズには主に3つの軽減バージョンがあります。(難易度順★★★)
- セツバンダーサナ〜ブロックを仙骨の下に入れて足を天井に伸ばす(難易度順★☆☆)
- 腰をくの字に曲げて両腕で腰をサポート。カウンターバランスのため足は頭の方へ伸ばす(難易度★★☆)
- ブランケットを肩の下に入れて身体を床に垂直に伸ばす(足をまっすぐ上げて練習したい人向け)(難易度★★★)
頸椎が90度に曲がらない場合や、ストレートネックの人はブロックを使ったバリエーションが最もやさしく取り組みやすいです。
また、仰向けの状態からお尻と足を持ち上げられない場合にも、ブロックを使ったバリエーションがおすすめです。
ブロックを使う場合はまずセツバンダーサナ(橋のポーズ)から入ります。ブロックを一番高い高さ+縦向きにお尻の下に入れることができれば、ブロックをサポートに使いながら足をあげられるため最もリラックスできるバリエーションとなります。
ヨガの実践(サーダナ)としてのサーランバサルヴァンガーサナ
サーランバ・サルヴァンガーサナ(肩立ちのポーズ)は、アーサナの女王としてその名にふさわしい存在です。この逆転のポーズは、外側に向きがちな私たちの感覚を内側へと引き戻す力を持っています。日々の生活で外界の刺激に晒される私たちは、このポーズを通じて内なる静寂を取り戻すことができます。
ヨガ八支則の一つであるプラティヤハーラ(感覚の制御)は、サーランバサルヴァンガーサナを実践する際に自然に促進されます。このポーズで逆転することで、私たちの注意は自然と内側へ向かい、内なる世界に深く入り込むことができます。
さらに、サーランバ・サルヴァンガーサナでは、ジャーランダラバンダ(喉の締め付け)を形成することが重要です。このバンダは、プラーナーヤーマ(呼吸法)における内的クンバカ(息の止める)の準備を助けます。ジャーランダラバンダを通じて、エネルギーの流れを制御し、内なるエネルギー(プラーナ)を蓄積することができるのです。
このように、サーランバ・サルヴァンガーサナは単なるポーズではなく、深いヨガの実践の一部として非常に重要です。このアーサナを通じて、心と体のバランスを取り戻し、内なる調和と平穏を見つける旅に出ましょう。継続的なプラクティスを通じて、その恩恵を存分に味わい、内なる成長と変革を促進しましょう。